コロナ禍の世で
風の谷のナウシカ「腐海」の意味を考える

時は「火の7日間」という生物兵器「巨神兵」が投入された最終戦争から1000年後の世界。高度産業文明は崩壊し、人々は中世的な生活を送っていた。世界には「腐海(ふかい)」が広がり、そこから発生する猛毒ガス「瘴気(しょうき)」は5分で人間の肺を腐敗させるためマスクなしでは生存できない。腐海は旧文明後の新たな生態系を構築しており、蟲(むし)と呼ばれる巨大な生物たちが生息し腐海を守っていた。なかでも「王蟲(オーム)、の怒りは大地の怒り」と、高度な知性と深い精神文化を備える王蟲は象徴的に描かれている。
人々は腐海と巨大な蟲たちに怯えて暮らし、この世界は腐海によって汚染され、腐海が拡大することで世界はさらに汚染していくと考えていた。しかし、ある日ナウシカが腐海の地下空間に落ちると、そこには澄んだ空気と水に満ちた森が広がり、頭上からは砂の結晶がキラキラと降り注いだ。そして、ナウシカは『腐海の木々は年老いて石になり、やがて砕けて森の底に砂となって降り積もる。その砂はこの世界の土や空気や水の毒が結晶したものであり、腐海は瘴気として少しだけ毒を出しながら、実はこの世界を浄化しているのだ』と悟るのである。人間が、腐海を焼き尽くし文明を再興しようと考えていたのとは対照的である。

歴史は繰り返すし、人間はいつでも間違える。そして、私たちはマスメディアから与えられる情報のなかに正解があるものと思い込み探し彷徨う。2019年末に突如出現した新型コロナウイルスに2020年も翻弄され、2021年からも続く。「新型」コロナウイルスについて考えるとき、私たちはこのウイルスがもたらした社会現象を地球規模で俯瞰する必要があるだろう。

未知のウイルスが発見されると私たちは「新型」と呼ぶが、その背景には人間が未開の地へ足を踏み入れることでもともとその地にあったウイルスに初めて感染することがある。新型コロナウイルス感染症は野生のコウモリからの動物由来感染症(ズーノーシス)であり、こうしたズーノーシスの主要な原因の1つが熱帯林地帯での森林や地下資源の開発にあることを知りもせずに各々の立場で社会問題を論じたところで所詮人間の思い通りに行きはしない。まず、私たちの社会活動が遠い異国の地の犠牲の上に成り立っていることを理解するのが道理であり、その理解なくして「サステナブル(Sustainable)な社会」、つまり「持続可能な社会」の実現は不可能である。